暗闇でダンス

 何時の間にやら秋競馬も真っ盛り。今週は僕のフェイバリットレースである菊花賞の発走です。


 今年の菊花賞はなぁ、ばたばたと離脱する馬が多くって、ちょっとばかし小粒気味に感じてます。皐月賞馬は出てるけど、春の主役は引退しちゃったし、これ!っていうカリスマ的存在もいないし…。ちょっとばかり寂しい菊ですね。なんだかなぁ、マチカネフクキタル優勝の年に似てるよね。


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 1996年秋。
僕が競馬を初めて2年目、丁度競馬熱が最高潮に達していた頃です。


僕は淀で、奇蹟を見ました。



 メインを張ったのは僅か3戦でダービーを征した天才フサイチコンコルド。そして天才と騒がれながら、僅か0.1秒差で春の栄冠を奪われた名血統馬ダンスインザダーク。


 早くから数多くのライバルを蹴散らし、クラシック、更には3冠まで期待されたダンスと、2戦2勝という僅かなキャリアでダービーに出走、ダンスを見事に打ち落としたコンコルド。この2頭の争いは本当に見ごたえがありました。


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 96年春。レース名は東京優駿(ダービー)。


 断然の一番人気ダンス。対するは7番人気、出走馬の中では凡庸と思われたコンコルド。

 ゲートが開き、レースが始まる。レースはダンス主導で進む。ダンスの動きを封じようとする残り17頭。サクラスピードオーが先頭に立ち、ダンスのスタミナを奪おうとする。イシノサンデーやミナモトマリノスがダンスに絡み、じわじわと動揺を誘う。

 第4コーナー。そんな17頭を、まるで居ないかの如く、蹴散らして先頭にたつダンスインザダーク。独壇場。17頭を引き離すダンス。ゴール前、見るもの全てがダンスの勝利を確信した。


 鞍乗の武豊も勝利を確信したのだろう。武にとっても、初のダービー制覇。天才・武豊が、ついに名人・武邦彦(父親)を超える日がやってきた。


 ダンスが勝利を確信した瞬間。



その一瞬の隙を突いてダンスを襲ったフサイチコンコルド。





 本当にゴール前一瞬の出来事だった。声を失った。差にして僅か0.1秒。天才・武と天才・ダンスは一瞬にして抜き去られた。


 勝者・フサイチコンコルド


 敗者。ダンスインザダーク


 前者には「ダービー馬」という称号が与えられ、将来を約束される。

 後者には、何も無い。それが僅か0.1秒の差であっても。


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 クラシック最終戦。菊花賞。



 もう後が無い。ここで負けるわけにはいかないダンスインザダーク。

 ダービーの奇蹟再び。音速の末足を炸裂させるフサイチコンコルド



 この日のダンスは、本当に奇蹟だった。






 それでも1番人気はダンスインザダーク。みんなが優勝を期待した。


 しかし、ゲートが開き、レースがスタートした瞬間、観客は声を失った。


 ダンスインザダークは最後方。17頭に包み込まれるように後ろへ下がっていくダンスインザダーク。

 対してはベストポジションをキープし、自分のペースでレースを進めるフサイチコンコルド。
 菊花賞は淀の芝3000M。


 ダンスがフサイチコンコルドを睨むようにしてレースは進む。しかしながらレースは2頭で動くものじゃない。残りの16頭も、虎視眈々と優勝を狙っている。


 それでも、ダンスはコンコルドの後ろ。彼しか見ていない。


 第4コーナー。必然的に、馬群が固まる。

 ダンスの前に馬込みが出来る。ダンスの前に17頭。その全てが当代隋一のオープン馬。残りは僅か600m。どう考えても、かき分けて前に出られるものじゃない。


 コンコルドはベストポジションから悠々と離陸。音速の末足をもって先頭に踊り出る。


 そのコンコルドに襲い掛かる16頭。しかしながら、コンコルドとの差は開くばかり。




 その時、ダンスが飛び出した。


 踊るように馬群を縫う。他の馬を蹴散らす。コンコルドに襲い掛かるダンス。音速の末足を、更に上回る光速の末足。まるでダービーの再現。復讐。やり返し。





 ダンスと武の意地を見た。


 2000m以上を走った後での、600m 33.8秒の剛脚。
(サラブレッドの平均は600m 37~40秒です。)




 ダンスが、コンコルドを抜き去った。その場所がゴールだった。






 テレビ観戦していた僕も、本当に鳥肌が立ちました。競馬を見てて、本当に、良かったと思った瞬間でした。




 ダンスは結局、この渾身の剛脚を最後に、脚を痛めて引退することなりました。でも、それも仕方ない、そうならないと化け物だ、と思えるくらい、本当にすごい剛脚でした。


  今でも僕はこのレースの録画ビデオを、時々家で楽しんでみています。


  このビデオを見ていると、どんなドラマよりも競馬は楽しい、と心から感じます。





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  で、えーと、長い話でした。ごめんね。


  今年の菊花賞には、そのフサイチコンコルドの子供、バランスオブゲームと、ダンスインザダークの息子、ファストタテヤマが登場します。いや、両頭とも、あんまり人気無いんだけどね。


  でも、この2頭で決まってほしいよなぁ。なんだか、そんな気がしてしまう。僕の思い入れの強い96年を、是非息子達に再現してもらいたい。だからって、この思い入れで馬券買うと、間違いなく外れるんだけどね。


 だから競馬は楽しいです。ギャンブルとしてじゃなく、ドラマとしても。


 武は嫌いですが、ダンスインザダークは大好きです。このように検索をかけると、今のお話が如何にすごい実話だったのかがたくさん出てきます。競馬初心者の方はこういう処から競馬の楽しさに触れてほしいなぁ。


 やっぱり、競馬楽しいよ。

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