リピートに耐えられること

Japanese Princess
 一度会ったら良い人だけど、二度目は酷い人。
 一度見たときには面白い映画だけど、二度見たらつまらない映画。
 一度目は素敵だったけど、二度目見てみたらそうでもなかったライブ。
 再読に耐えられるもの。これは、僕がモノを作るときにいつも意識をしていることです。出来てないけど。全然出来てないけれど。そもそも人としては初回から酷い。そこからして駄目だ。
 いや、本当にコレは難しい。僕の作り物に限りませんが、再読、再々読に耐えられる作品というのはとてもクオリティが高いと思います。クオリティとは、大幹の頑丈さ、そして細部にわたる精緻。破綻がないというレベルではなく、トリックやギミックと関係のないところで別の味わいが見えてくる作品。ビリビリっとした刺激を求めて、再読に耐えうる作品に出会う為に僕は乱読をしています。
 人と同じ、読書や映画は全て出会いです。ご縁は大事。ご縁は大事。
 それゆえに、僕が作品を判断する一つの基準として「時間の試練を耐えていること」をいつも考えてます。伝統や歴史、が好きだという僕の嗜好もありますが、数多くの人の再読を経て、それでもなお面白く、その次から出てくる新鋭の作品達の中でも埋もれずに生き残ってきたもの。これを僕は上質と考えています。
 なので、読む本がどうしても旧作に傾いてしまうのですよね。過去の名作は大好きです。
 特に、その世代の若者が支持して、でも当時の権力世代が顔をしかめたもの。今になっては評価されている作品でも、その当時に抑圧、あるいは捨て置かれた作品って、また輝きが違います。時間の試練により浮かび上がってきた、ということですからね。
 自分の視点や感情は、ほとんどあてになりません。また、「今の僕の感情にぴったり!」なんて思える作品は、たまたまそのタイミングに出会ったからこその感想であり、その作品本来の魅力ではありません。
 で。
 結構前に読み終わった作品ですが、「深夜プラス1」。
 今のところ、今年読んだ本の中で最も再読に耐えられるミステリーでした。

 そう、ミステリー。
 再読に耐えられるという試練において、もっとも不利なポジションです。
 だって、ネタバレしたらあかんやん、魅力ないやん。最後どうなるかわかるやん。という状況で、それでも作品そのものを楽しめるか否か、これはミステリーの組み立てのみならず、筆力が一番問われる状況だと思います。
 「深夜プラスワン」でGoogle検索してみると、その賞賛はいくらでも出てくるのでここでは割愛しますが、80年代90年代のミステリーは、ああ、全部この種牡馬から生まれてるのね、と思えます。いや、真実なんだけどね。次元大介(ルパン三世)も、この作品からスピンアウトして生まれたキャラクターです。いや、本当に。ウソや思たら、ちょっと読んでみ。
 でも、翻訳は、僕の苦手な菊池光。
 ですが、この作品に関しては、苦手な菊池節をものともせず、ぐいぐいと引っ張っていきました。
 ディックフランシスの菊池訳はどうにも甘ったるく、論理的なのか情緒的なのか微妙に尻の座りが悪く感じてましたが、これだけスピーディに引っ張られるととても心地よい。
 とはいえ、60年代の作品なので、今の作品に比べたらゆったりしてますが、これがまた心地良い。
 この作品では、圧倒的に登場人物がお互いの信念をぶつけ合って、その上にトラブルがどんどん舞い込んできて、それでもなお成功に向けて話が進んでいく。その進行はリアリティある小道具やシニカルな会話によってのみ表現される。
 そうそう、この表現手法。「~と思った」「~と考えた」という文章や、説明口調の会話は無く、その上で、解り易いストーリー展開。小道具の見せ方は精緻を極めているのに、その小道具を知らない人でも気にせず読める。知ってる人だとなおさら唸る。
 文章学校では一番初めに学ぶことなんだけど、これが高度に出来ている小説って、実はあまりない。
 というわけで、今年の中で一番感動した本。もう一回読もう。
 今年は本の感動目標を達成したので、その他のフィールドでも感動していきます。
 (もちろん、小説も読むけどね)
 最近この本読んだ人、是非語りましょう。
 僕はロヴェルよりカントン派です。弱点がありながら、男義で弱点を克服するやさ男より、はじめから一貫した逞しいマッチョリーダー(マッチョすぎるところにトラウマ有)が、大好きです。
・・・正直、大学時代に英米文学専修にして、ヘミングウェイを卒論にしていた者としては「今更この作品かよ!」と言われる恥ずかしさはあるのですけどね。うん、日本文学を学んできた人間が今更三島由紀夫を絶賛するような。

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